蒔絵の裏ワザ
2007/3/13
3月10日から「松田権六の世界」展の巡回展がMOA美術館で開催されています。美術館周辺は梅も咲き、もう春真っ盛りです。今回の展示会場の空間は、石川県立美術館・東京国立近代美術館工芸館とはひと味ちがい、ゆったりと鑑賞できるのが魅力です。また、松田権六の代表作のひとつ「蓬莱の棚」が中央のケースに入り、360°ぐるりと見ることができるのもMOA美術館ならではでしょう。その他、椀類も以前よりも広く展示されているので、ゆっくりと見ることができます。
ところで展示中の「蓬莱の棚」で新しい発見をしました。それは画面一杯に並んだ鶴の足です。足は高上げした上に肌色に合わせた色漆を塗り、すぐに「引っ掻き」によって表現をしています。ここまでは写真で見てもよく分かるのですが、今回改めて見ると、その足に塗られた色漆は、卵白を混ぜ固く練った絞漆だったのです。絞漆をタンポで塗ってすぐに叩いたり、ねじったりして地文を作り、さらに引っ掻きを行った結果、鶴の足の質感がよりリアルな表現になっていたのでした。
もう一点。動物蒔絵膳(熊)をみると、はじめ熊の部分は真黒に見えたのですが、熊はおそらく砂糖炭の乾漆粉による黒蒔絵として手足や顔の部分に蒔絵で線描を研ぎ出していました。そしてかなり厚く研ぎ付けられた熊の文様の間に二層の金消粉の層を挟んで黄色漆を4回塗り込み、研ぎ付けて仕上げてあるのです。さらに周辺部には岩崎邸での室内装飾のために作ったと言われている、金塊を潰した極端に粗い金平目粉を散らしています。
その他にも、卒業制作の「草花鳥獣文小手箱」や椀類には、パッと確認できるデザイン効果のために、かくされた技法が山ほど詰まっています。これが蒔絵の世界なのです。
今回はかなり専門的な技法の話で、漆芸に携わらない方々には意味不明な内容になってしまいました。それでもルーペ片手に美術館に出かけると、その質感がよくわかると思います。そのような専門家の目で見る「松田権六の世界」展は、また違った魅力があるので、見落してしまった方は、もう一度熱海までお出かけ下さい。

