漆 | 室瀬和美 :::: Urushi | Kazumi Murose, Japan

蒟醤(きんま)

2008/3/12

現在、高松市立美術館において、蒟醤で国の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されている太田儔先生の作品展が開催されています。会場には太田先生の「木地蒟醤」と称する若い時代の作品から、現在に至る60点あまりが展示されています。

2月24日(日)には、東京国立近代美術館工芸課長の金子賢治氏による記念講演があり、私も行ってきました。

講演内容は、明治時代以降の「工芸」と呼ばれるジャンルを、1.「手作り」的産業形態、2.グラフィックデザイン等の工業的工芸、3.芸術品の分野にあたる作家表現としての工芸、と大きく3つの分野に分け、日本の作家活動としての「工芸」は1と2を否定することなく、その領域の延長上に存在しており、これはヨーロッパにおいて手工業の否定から機械工業へと変化した経緯とは全く異なる、ということから始まりました。さらに現代工芸作家の海外からの影響などに話しが広がり、昭和の工芸作家の作品へのアプローチ法の違いにも触れられていました。そして太田先生が、四国香川県の彫漆・蒟醤・存星を主体とした産業としての漆工芸の隆盛から衰退の原因を、手作り籃胎から機械轆轤への量産化と分析され、そこから最終的に籃胎による蒟醤の再現を芸術作品として完成させたと話されました。

この講義は太田先生の木工・竹工・漆工と多岐にわたる技術力と研究の志の高さを、改めて認識する機会となりました。

さて蒟醤技法とは、漆を塗り重ねた後、1.文様を「剣」と呼ばれる刃物で彫り込む、2.その中に彩漆を埋め込む、3.それを研ぎ付ける、この作業を異なった色を重ねながら何回も繰り返し、複雑な色調に仕上げていく技法です。元来、中国南方からミャンマーやタイなどに伝わり、さらに日本にも伝わりました。歴史的には、黒・朱・黄色等の色の組み合わせが一般的ですが、現在では色数も多く、発色も鮮やかです。

太田先生の技法は、「布目彫り」と称し、縦・横・斜めと細かく彫った線にそれぞれの彩漆を入れ、立体感を表現されています。さらに素地の籃胎は自ら研究を深め、寸分の狂いのない、精度の高いボディを制作されています。この竹を素材としながら、ゆるみのない正八角形に組み上げる技は、他の人には真似の出来ない高度の技なのです。

漆芸技法には多くの表現があり、日本に於いては、そのほとんどの技法が途絶えることなく現在に伝えられています。二千年に及ぶ歴史のある多様な漆芸技法を用い、芸術的な域に高め、それらを維持し続けているのは、世界広しといえども日本をおいて他にないのではないか、と改めて思いました。