漆 | 室瀬和美 :::: Urushi | Kazumi Murose, Japan

鶴の羽根

2008/9/5

またご無沙汰してしまいました。現在10月の個展に向けて、制作に追われる日々です。

そんなある日、新潟から突然鶴の羽根が4本送られてきました。事前にお電話はいただいていたものの、やはりびっくり。中に入ったお手紙を読ませていただくと、学校に置いてあった剥製の鶴が古くなり、処分することとなったのだとか。拙著「漆の文化—受け継がれる日本の美(角川選書)を読んで下さり、「蒔絵に使用する粉筒は、昔は鶴の羽根の軸を加工して利用していた」という文章を覚えておられたそうで、捨ててしまうのであれば、ということで取りに行ったそうです。しかし、剥製はずっと放置されていたらしく、残念ながら虫が食ってほとんど使い物にならなかったとのこと。ようやく取れた丹頂鶴と真名鶴の羽根を各2本ずつ、計4本がお手紙と共に箱に入っていました。

大型の鳥は当然ながら一枚一枚の羽根も大きく、羽根軸も太く固くなっています。蒔絵用の粉筒は、その付け根部分の、固い部分のみを使うのですが、鶴の羽根は、ほとんど加工しなくても自然のままで「細く、薄く、固く、軽い」といった粉筒としての機能と形を兼ね備えています。

筒の先に使用する金粉の粒子に合わせた目の細かい絹布を張り、元の方から金粉を入れ、指で筒を持ってはじきながら振動を与え、必要な金粉の分量を必要な文様の位置に蒔いていくのです。

したがってその筒は、できるだけ薄く、固く、軽いことが必要で、鶴の羽根軸がそれにぴったりなのです。しかも鳥の羽根軸は、羽根先の方が元々斜めになっているので、金粉を入れるのに最適な形をしているのです。いつ頃から鶴の羽根軸を粉筒として利用してきたのかは定かではありませんが、自然を利用した先人の知恵でしょう。私は父が残してくれた鶴の羽根軸の粉筒を大切に使っています。

蒔絵の仕事をしてから、色々な鳥の羽根軸に目が向きます。例えば孔雀の羽根。これは細く薄すぎて、向いていません。またある時は、知人からペリカンの羽根軸を一本頂きました。ペリカンは鶴よりも大型なので、さすがに鶴よりも羽根軸が太く、充分使用できました。ただ、軸の厚みが鶴よりも薄く、丁寧に取り扱わないと割れる恐れがあります。こうやって色々と使い比べてみると、やはり鶴が一番、という結論に至りました。

しかし、鶴の羽根は今や入手不可能に近く、今回のような機会は特別です。現在蒔絵の技術者は、葦の軸を削って粉筒を作り使用しています。

本当にありがたい出来事でした。送っていただき、心より感謝いたします。